音楽留学体験者でなくては分からないような、音楽大学、音楽専門学校、音楽教室のコースプログラム、夏期講習会、現地の生活情報などを伺ってみます。将来の自分の参考として活用してください。
倉田莉奈さんプロフィール
埼玉県出身。桐朋女子高等学校音楽科卒業、桐朋学園大学4年次在学中。高校2年次と大学2・3年次、桐朋学園主催Students’concertに選出され、出演。2008年、第17回日本クラシック音楽コンクール高校生の部全国大会入選。2010年、第10回ショパン国際ピアノコンクールin Asia コンチェルト部門アジア大会奨励賞入賞。2010年「高橋多佳子とヤングピアニスト」にて高橋多佳子氏と連弾で共演。2010年ニース夏期音楽アカデミーに参加、修了演奏会に出演。今までに、関根聡子、川島伸達の各氏に師事。
-まず簡単なご経歴を教えて下さい
倉田 ピアノを始めたのは4歳からです。5年生の時に桐朋の音楽教室に入りまして、高校・大学と桐朋で学んでいます。
-小さい頃から本格的に勉強されていたんですね。
倉田 本格的に音楽の道を目指そうと決めたのは、中学生の時に進路を決めるときですね。
-今まで海外の講習会に参加されたことはあったんですか?
倉田 去年ニースに参加しました。
-いかがでしたか?
倉田 日本人だらけでした。ですので、今回とは全然雰囲気が違っていましたね。土地柄も違いますし。
-海外にはよく行かれるんですか?
倉田 そんなに経験は無いですよ、旅行に行ったくらいです。長期滞在したのは去年のニースが初めて。でも、フランス語ができなくても大丈夫な環境だったので、フランスに行ったと感じたのは今回の方が強いですね。
-今回ピレネー夏期音楽アカデミーに参加されたきっかけは?
倉田 ピエールレアク先生に見ていただきたいというのが大前提でした。3月に東京で公開レッスンがある予定だったんですよね。そこからゆっくり考えようと思っていたんですけど、キャンセルになってしまったので。今年4年生でラストチャンスということもあり、先輩に話を聴いたり先生の門下の子と連絡をとって情報を集めました。レアク先生が、どこの講習会に行くのかとか、どんな先生なのかとか。話を聞いていたら自分のつきたい先生の像と一致していたので、思い切ってピエール先生に会うためだけに行きました。他の先生に見ていただくことも出来ましたが、2週間びっしりレアク先生に習いたいと考えていました。
-先生はどんな方でしたか?
倉田 思っていた通りだったんですけど、本当に優しいお人柄でした。アジア人が私一人だけでしたし、フランス語も不安だったんですけど、全部ケアして下さって。英語も話してくれますし、音楽的にもバラエティに富んでいて非常に勉強になりました。いろんなジャンルの曲を持って行ったのですが、全部丁寧に見てくださいましたよ。毎回、一時間あっという間に感じる楽しいレッスンでした。日本の先生があまり言わないような細かい所も指摘して下さって。たとえば、「これは、弦楽四重奏の曲だからこういう風に弾こう」とか、そういうアプローチの仕方が新しいなと思いました。そういうことってヨーロッパに生まれたヨーロッパ人と、日本で西洋を学んでいるのとは全然違いますからね。自分もそういう場所に住んで吸収したいなという思いを強くしました。
-レアク先生は、厳しいときもあるそうですが・・・。
倉田 そんなことはないです。出来るまでやるという感じはありますけどね。いろんな方のレッスンを見ましたが、妥協無く教えるという感じで、誰もが納得するような内容でした。出来ていなければ出来ていないということを言って下さるので、熱心に見てくれるということです。本当に優しい方ですよ。
-他の参加者の方は何人くらいいたんですか?
倉田 レアク先生のクラスは、今回は少なくて全部で5人です。パスカル先生は10人くらい。ピアノだけでも30人くらいはいました。ピアノよりもオーケストラの方がすごく多くて、全体としてもかなりの人数だったと思います。
-レアク先生が他の先生より人数が少なくて得だったことはありますか?
倉田 毎日のようにレッスンがあったことは良かったですね。「明日はこれを持ってきて」とか言われてとぎょっとしたこともありましたけど(笑)。2週間で10回くらいレッスンをしました。曲が足りなくなりまして、同じ曲を二回持って行ったりしました。
-10回くらいありますよというスケジュールが出ていたんですか?
倉田 基本は毎日レッスンがあるという感じ。お休みの時は連絡が来る形でした。
-先生のどんなところが印象に残っていますか?
倉田 現役でコンサートをやられている先生に習うのが初めてだったので、やはりステージパフォーマンスの部分です。ステージ上でどういうように振る舞うとお客さんと一体になれるかとか、実際に本番で弾くときの間の取り方や体の動かし方を教えられました。他では学べないポイントですよね。
-今後に活かせそうですか?
倉田 じっくり練習することと、仕上げるときに舞台でどう映えるかということの両面から高めていける感じでした。バランスも良かったです。
-レッスンは何語で行われたんですか?
倉田 英語です。
-練習はどこでしていたんですか?
倉田 小さな小学校で、アップライトのピアノが各部屋にあるような所でした。参加者がたくさんいたので町中のピアノがある場所を押さえていたんでしょうね。小学校なので防音設備もなかったです。
-小学校ですか。ちゃんとしたピアノもあったんですか?
倉田 部屋に寄りけりなのですけど・・・。重い、軽い、音程がすごく低いとかありましたね。いつ調律したのかな?みたいな感じです。グランドピアノはなかったですし。
-レッスンはグランドピアノですよね?
倉田 はい、その小学校の体育館にありました。二部屋グランドピアノがある部屋があって、一部屋をレアク先生が使い、もう一部屋をパスカル先生が使うという形でした。
-レッスン場所と練習場所は同じだったんですね。
倉田 そうです。オーケストラが演奏会をするホールがすぐ近くにあって、集合するときはそこになるんですけど。
-小さい街ですよね?
倉田 空港から絶対一人では行けないくらいの所でした(笑)。スーパーとかもちゃんとあって街は街ですよ、観光地ですし。軽井沢の小さい版みたいな感じですかね、山が多いし。
-レッスン以外の自由時間は何をしていたんですか?
倉田 私たちの場合は毎日のようにレッスンだったので、相当練習時間に取られました。もちろん、街中はぐるっと歩くくらいの時間はあったので、スーパーに行ったりWi-Fiの電波を探したりしました。カフェに無線LANのスポットがあったのでそこに行っていました。携帯は、現地で借りた方が良いですね。日本の携帯を持って行ったんですが、いろいろ不具合もあって連絡を取るのが難しかったです。
-宿泊先はどうでしたか?
倉田 すごかったですね(笑)。まず寒すぎて、それがいちばん困りました。夏なのに12度~13度とかだったんですよ。寒いとは思っていたんですけど、日本が暑すぎたのでどのくらい寒いか想像できなくて。夜眠れなくて大変でした。毛布を渡されたんですけど、布キレみたいな感じだったので、カーディガンを着たまま寝ました。途中で耐えられなくて言いに行ったら、もう一枚布キレをくれただけでした(笑)。シャワーも窓開けっ放しで、外気温と同じようなところでしたから。
-お湯は出るんですよね?
倉田 出るんですけど、日によって温かくなかったりすることもあって、修行みたいでした。気温に関しては注意した方が良いです。あと、洗濯が出来なかったのは残念でした。
-むこうの環境で困ったことはありますか?
倉田 食事でしょうか。ありがちだとは思うんですが、お肉がドーンと出て野菜がほとんどない。冷凍食品でしょうね。なので、朝はスーパーで買った野菜を食べたりしていました。スーパーがあったので何とかなりましたけど。
-外食は?
倉田 一、二回ですね。カフェはたくさんあったんです。クレープ屋さんとか可愛いお店もありましたね。あと、一軒すごいうるさいクラブがありまして、夜はみんなそこに行っていたようです。
-今回、レアク先生のクラスに日本人は倉田さん一人だったんですね。
倉田 はい。パスカル先生のクラスに一人いましたけど。パリに住んでいる子でしたので、いろいろと助けていただきました。
-他の参加者は海外の方だったんですね。
倉田 ほとんどフランス人でした。国内だからこそ来ているって感じですよ。「え!日本から来たの?」って驚かれました。
-そういう環境にいて、海外の人とコミュニケーションするコツみたいなものは見つけましたか?
倉田 こっちから話しかけるようにすることが必要かなと思います。向こうからしてみれば、何語を話すのかもどのくらいフランス語を話せるのかも分からないだろうし。話せなくても「このくらい話せないんです」っていうのを明らかにすれば、ゆっくり話してもらえるし。文法は適当でも、伝わればいいくらいで気楽に考えた方がいいかもしれないですね。
-フランス語で会話していたんですか?
倉田 英語と両方ですね。両方とも中学生レベルですけど。フランス人の子にはフランス語を教えてもらいました。でも、さすがにフランス人同士で話しているところには入れませんでしたけど。
-参加者の年代は?
倉田 同じくらいか下かでしたね。十代が多かったです。みんな優しくて、楽しく過ごしました。
-今回の講習会に参加して良かったなと思うことは何でしょう?
倉田 やはり最後のコンサートが印象的でした。スチューデントコンサートは、ほとんど全員が出るんです。向こうの方たちの関心ってすごいし、たくさんお客さんが来ているのも刺激的でしたね。先入観を持たずに聴いて下さるし、その時感じた印象で正直に感想を言って下さるんですよ。いろんなことを褒めていただいたので嬉しかったです。フランス音楽を弾いたので、それも少し自信になりましたし。
-それは素敵ですね。
倉田 あと、先生が「もっと外に出てきた方がいいよ」っておっしゃってくれたんです。「こっちに住みたいなら、どんどん国際コンクールに挑戦した方が良いよ」と。来年、先生が審査員をするコンクールもあるから頑張ってみたらと誘われました。買って下さったっていうのが嬉しかったので、挑戦したいなと思いました。
-行かれてみて音楽的に変わったことや、人間的に成長した部分はありますか
倉田 日本人らしく、あまりにも慎ましくしていると、やりたい音楽が出来ないなと思いました。最初はコミュニケーションもあまり取れないし、ピアノもどういう風に弾けばいいか悩んで、自分一人で考えたりする時間も多かったんです。でも、人にどう思われるかを考えずに話した方がいいし、ピアノも評価を気にせず、まず自分が表現したいことを打ち出すことが大切だと感じました。そうじゃないと向こうの個性豊かな人たちには敵わない。そして、自分にはやりたいことがあるんだっていうことも気づきました。
-具体的に言うと?
倉田 ガンガン派手な曲を弾くよりは、変化をつけながらいろんな音を出して、最後までギャップで見せて行くみたいなのをやりたいなと。いろんなタイプの人がいて、お互いに練習を聴き合ったりして話をしたんですが、同じ曲にしても、トラディショナルな考え方の人もいれば、今のコンサートで今のお客さんを楽しませるなら前衛的に言っても良いんじゃないかっていう人もいる。日本だと正確性のほうが重視されますが、ちょっと無難ですよね。もちろん正確に弾くことの美しさはあると思うんですが、自分としては変化に富んだ音楽をやりたいし、もっとピアノで出来ることを考えようと思いました。
-大きな収穫だったんですね。
倉田 今も日本のコンクールに向けて準備しているんですけど、私はそんなに音も出る方じゃないし、パワーで持って行くのもそんなに好きじゃないって気づいたので、繊細なところを丁寧にやろうと。振れ幅を大きくして飽きさせないような表現をしたいと思います。
-日本と大きく違う点は?
倉田 やっぱり言いたいことを言っている人が多いですよね。練習室ひとつにしても「私はこのくらいの時間がないとダメだから、あなたは何時に来て」みたいな自分勝手なことを言う人もいましたし。それにめげず、言いたいことは言わないとやっていけないです。日本人って協調性があるし、そこまで空気を乱す人はいないじゃないですか。でも、ちゃんと自己主張しないといけないって意識するようになりました。
-では、今後留学を考えている人にアドバイスをお願いします。
倉田 迷ったら行ってみたらいいと思います。勇気を出さないと何も出来ないと思うので。行ってしまえば楽しいですよ、とりあえず行ってみてって伝えたいです。コミュニケーションが取れなければ取れないでも勉強になると思うし、細かいことを気にせず一歩を踏み出すって言うのが大事だと思います。ポジティブな気持ちで考えたらいいのではないでしょうか。
-留学する前にしっかりやっておくべきことはなんでしょうか?
倉田 語学ですかね。最低でも英語が理解できないと厳しいと思います。日本人がたくさんいる講習会なら良いと思いますが、マイナーなところに行くなら、いくら勇気があっても英語が話せないと厳しいです。あとは曲をあらゆるジャンルからたくさん準備することですね。何を見てもらいたいかっていうのを事前に考えておいた方が良いと思います。
-最後の質問ですが、倉田さんの今後の進路を教えて下さい。
倉田 今回レアク先生とも将来の話をしまして、パリに来て勉強しなさいと言っていただいたので、来年、パリ地方音楽院の大学院ディプロマが取れるコースを受験しようと思っています。
-それに向けて準備は進めているんですか?
倉田 まず大学を卒業して、語学をしっかり勉強して、秋の受験に備える予定です。
-ぜひ頑張って下さい。今日は本当にありがとうございました!