川本裕之さん/打楽器/英国王立音楽大学(RCM)/イギリス・ロンドン

川本裕之さん/打楽器/英国王立音楽大学(RCM)/イギリス・ロンドン
国立音楽大学・音楽学部 打楽器専修を卒業。1年半、フリーランスの打楽器奏者として日本で活動の後、英国王立音楽大学に留学。2013年7月に同大学院を首席で卒業。在学中に4ヶ月間交換留学生として、ベルリン芸術大学で本格的にティンパニを学ぶ。卒業後、ドイツ・ミュンスター歌劇場オーケストラで、約1年プラクティクム(インターンシップ)として演奏活動し、ポーランド・ヴロツワフのNational Frum of Music、イギリスはリーズのOpera North の2つのオーケストラでのティンパニ奏者就任へのトライアルとして演奏。現在は日本に帰国しそれぞれの最終結果を待ちながら東京を中心にフリーランスとして活動中。
川本 国立音楽大学で4年間勉強し卒業後、1年半フリーランスで仕事をさせていただきました。その後ロンドンに移り、1
年目ギャップ・イヤーというコースを経て、その年に同大学院のオーディションに合格し、次の年からそこで本格的に勉強し、卒業しました。その後、ドイツのミュンスターオペラハウスのオーケストラで、プラクティクム(インターンシップ)という約1年の契約で演奏活動をしつつ、ポーランドはヴロツワフのオーケストラ、英国リーズのオペラノースのオーディションを受け、それぞれ最終の2名、及び5名に絞られて、それぞれ本番の演奏会で演奏するというトライアルを先日終えたばかりです。現在は東京フィルハーモニーetc.でエキストラ演奏するなど、フリーランス奏者としてポーランドとイギリスからの最終結果を待ちながら活動しています。
- 海外には結局何年いたのですか?

川本 3年です。最後の1年に4ヶ月だけドイツのベルリン芸大に交換留学をしていました。
- 留学したきっかけは?

川本 きっかけはだいぶ遡るのですが……。大学3年生の時にアンドビジョンでお世話になって、リーズの打楽器講習会に行ったんです。その後ロンドンに行ってBBCの演奏を聞いたときに、ティンパニの音に感動して。その次の年にその人に直接習いに行ったんですけれど、当時は英語もオ- ケストラのティンパニへの知識等が足りなく、習う準備が出来ていないと言われ、十分な内容のレッスンが出来ず、もう一回習いたいと思って行ったのがきっかけです。
- RCMでBBCの人に教えてもらえたのですか?

川本 いえ、後から分かったことですが、その人がもう教えていなくて。大学の先生が同僚なので、その人に聞いたら、もう教えることをしていないと。頼まれても断るような感じだったらしくて。結局自分もレッスンでは習うことがなかったのですが、でもコンサートとかに行けば見れるので、そこで技を盗むようにしてました。
- 1回直接行った時は習えたのですか?

川本 その時は多分、友達の友達ということで、特別にということだと思います。
- 良かったですね。留学時にRCMを選んだ理由は何だったのでしょうか?

川本 消去法もありましたが、RAM(アカデミーの方)は英語のレベルが高かったのと……。
- ギルドホールも受けたのでしたっけ?

川本 ギルドホールは受けませんでした。候補には上がったのですが、先生と相談して。あれはフルタイムのものではなかったんですよね。しっかりやろうということで、RCMの大学院の方を選びました。でもそれで良かったです。よくわからない1年間があって3年いれたので、いろんな意味で良かったです。ギルドホールに行っていたら2年間で終わっていたので。
- 今はギャップ・イヤーも今はなくなってしまいましたしね……。

川本 ないのですか?
- ないんです。
もうバチェラーかマスターでしか入れないので、ある意味、うやむやな最後の時期でよかったですよ。ところで入学試験は大変でしたか?
川本 最初の、東京で受けた試験は簡単でした。多分むこうがマスターの試験だと思っていなかったのですけれど。学校に通い始めてからのマスターの試験もわりと簡単だったような……。自由に何でもやっていいよ、というような感じで。オケスタは何曲か向こうで用意されたものがありましたけれど、よく出されるものしかやらなかったのでそんなに大変ではなかったです。初見が僕にとってはきつかったですけど、技術的には日本人は普通に受かると思うので。そういう意味では楽でしたね。
- マスターの試験はギャップ・イヤーが終わる頃にあったのですか?

川本 2月だったので中間あたりでしたね。試験は二回あるのですが、特別にレイトオーディションの方でいいよと言われて。普通だったら秋の方を受けなければならないと思うのですが、急だったので特別にと。
- では割と相談に乗ってくれるという感じで?

川本 そうですね。学生だったので特別にだと思いますが。結局誰か受けたのかは知らないのですが、僕しかいなかったんですよ。僕の学年は僕だけで、後はマリンバの学生が2人いましたけれど、マリンバは別なので。
- マリンバは別でしたっけ?

川本 そうです。むこうは枠が2と決まっているんですよ。こっちはいくつかは分からないのですが、でも僕の後の年が5人だったかな。その次の年も今年結構入っているので。もともと学部生だった子も2人受かったのでそれプラス外から3人……。
- マスターの方に入ったと?

川本 はい。僕の時はなぜかは分からないのですが。だから自動的に主席で卒業しました(笑)。
- すばらしいですね(笑)。
学校の手続きで苦労したことはありますか?
川本 ほとんどやっていただいたので(笑)。どちらかというとアンドビジョンさんが大変だったのではと思います。僕が一番大変だったのは、英語の問題ですね。
- ギャップ・イヤーの時に学校でも英語の授業はありましたか?

川本 はい、ありました。それはギャップ・イヤーだけではないのですが。誰でも受けられるので、週に2回くらい行って。
- マスターに入られる直前にIELTS全項目で5.5がとれた?

川本 そうですね。ギリギリ。
- 学校の内部に入ってから大変だったことはありますか?手続き関係で。

川本 英語だけですね。最初に行ったときは何が何だか分からないし英語も大変でしたが。そのくらいで、他は別にないですね。院を受けたときに自分で申し込みをしなければならなかったので、その辺はちょっと面倒くさかったですけど。オンラインでやらなければならないので。
- 留学の準備は結構前から始めていたのですか?

川本 そうですね。1年前にしようと思ったら、試験がもう過ぎてしまっていたので。だからほぼ丸一年かけて、実際には1年ずっとその練習をしていたわけではないですけれど、気持ち的には1年間。
- 学費はずっと親御さんが出されていたのですか?

川本 はい(笑)。
- 何か奨学金等は?

川本 もらわなかったですね。申し込みもしませんでした。明らかにするべきでした。。
- ではこれから恩返しですね。

川本 そうですね。この前聞いたら、3年間で学費・飛行機代・家賃など、全て含めて1500万を僕のために使ってくれたと。
- それだけの価値があったならいいと思いますよ。
行った時の方が今よりもポンドは安かったですよね?
川本 行ったころ安くなり始めて、3年目の最初くらいまで安くてだいぶ落ちて120円位までになっていました。なのですが最近どんどんあがってきました。最後の学費を払い終わった後に高くなっているので、それはよかったですけど。これから行く人はちょっと大変ですね
- 学校はどんな雰囲気でしたか?

川本 僕はイギリス人が苦手かもしれないです。
- 3年いて分かったことですか!?

川本 向こうの人は島国なので、なんかちょっと似ているんですが、イギリス人はイギリス人で固まるので、ちょっと閉鎖的なところがあるんです。イギリス人の中でも外国人、特にアジア人とどう接していいか分からないという人もいるらしいので。僕自身も人見知りで、英語もできないというマイナスなイメージを自分でも持ってしまっているので、フレンドリーにいけないこととか、自分から話しかけにいけないとかは今でもまだあります。そういう人にとってはちょっと大変かもしれないですね、イギリスは。
- ドイツに行ってみてドイツの方がいいなと?

川本 ドイツの方が仲良くした人がいますね。時間が長かったので、数ではイギリス人の方が多いかもしれないですが。ドイツでの方が仲良くなるのが早いですね。と言っても、ドイツ人ともそんなに関わってはいないのですが。打楽器には全然ドイツ人がいなかったので。
- どちら出身の方が多かったのですか?

川本 南米2人とアメリカ・オ- ストラリアと韓国人と。あとちょうど受けに来ていた人を含めたらエジプト人とか。
- すごく国際的ですね。

川本 そうですね。イギリスもいろんな人がいるのですが、打楽器だけで言ったらドイツの方がインターナショナルでしたね。イギリスのオーケストラって、イギリス人しかいないじゃないですか、打楽器は。バイオリンとかはいっぱいいるのですが。だからもし自分がリーズに入れたとしたら光栄だなと。先生に聞いたことがあるんですよ。「イギリス人以外で国内のプロオケに入っている打楽器奏者はいるのですか?」と。「いや、知らない」と言っていました。
- ビザの問題もあるのですかね?

川本 ビザもあると思いますが、それよりも閉鎖的なんでしょうね。イギリス人より上手い人はいっぱいいるのに(笑)。
- イギリスには日本人は結構いますか

川本 ウィーン・ドイツ・フランスよりは少ないと思います。楽器によると思いますが。でも、最近減っていると思います。大学も日本人の数がだいぶ減ってきたので、多分英語が厳しくなっているのと……。
- この前受験して、RCMの先生方がいらして、受験生で8人が受かっても1人しか英語をクリアしてくれないと嘆いていました。
日本とイギリスとで全然違う点はありますか?
川本 マイナスなことかもしれないですけど、不真面目というか……、本当に頑張らないといけないときには、まあそれでも真面目に頑張ってるなと思う時もあるのですが、基本的には練習があまり好きじゃないですね。その中身もちょっと浅いというか。細かくこだわることをしないので。技術的なことでもスキはいっぱいありますし。ただ向こうの方が、譜面に書いてあることを多少変えてでも、音楽的に何かするという思考が強いですね。いい面・悪い面両方ありますけど。
- 本人がどう演奏するかというところで?

川本 そうです。
- 練習はずっと学校でなさっていたのですか?

川本 そうですね。
- だいたい何時から何時くらいまで使えるのですか?

川本 留学1年目の後くらいから変わって、朝8時位に開いて、夜12時までです。
- 長いですね。一日何時間くらい使いました?

川本 本人次第なんですけど、人が多い上に部屋がそんなに多くないので……。一人1日3時間までとなっているので、3時間は絶対できます。自分のしたい時間にできないというのは、結構ありましたね。午前中から夕方までの6時間くらいがピ- クで、凄く人が多いし。打楽器は自分の楽器じゃないので、取り合いになるじゃないですか。なので、なかなか思った練習ができないというのはありました。夕方/夜になると彼らは飲みに行ってしまうので(笑)、人がどんどん減っていって練習できますけど。あとは本人次第で、部屋以外の所でできる練習を自分で見つけて、階段の踊り場などで練習していました。熱心な人はそうやっていましたね。
- でも熱心な人はそんなに多くはないと。

川本 そうですね(笑)。
- 学校でコンサートは頻繁にあるのですか?

川本 頻繁かな……。ワンターム(約3ヶ月)にオーケストラの本番が、4回くらいあると思います。ただ打楽器は人が多いので、なかなかたくさんのれなくて、タームに1個か2個、2個のれたらいいくらいですね。後はそれぞれ打楽器のコンサートが年に2回あって。後はサックスだったりストリングだったり木管金管、たぶん1年に2回くらいだと思います。
- 自分が乗れない時は、その曲は練習しないのですか?

川本 しないですね。
- 一日のスケジュールはどんな感じでしたか?

川本 一番大変な時では、朝9時くらいに行って練習して……。朝ご飯はパンか何かを買って食べながらやって、お昼を食べて、まぁずっと練習ですね(笑)。疲れたときとかはカンティーンで休憩しつつ友達としゃべったり、図書館でCDを借りて内緒でパソコンに取り込んだりしてました。
- 授業はどれくらい?

川本 僕は大学院では授業はなかったです。自分で取らなくていいようにしたので。
- 授業はなしでレッスンもなし?

川本 レッスンはもちろんあります。僕は大学院ではオーケストラスペシャリズムというコースをとっていました。授業を取ろうと思えば取れるのですが、単位がいろいろあって。オーケストラコースでは、授業以外にもコンチェルトコンペティションを受けるだけでも単位になるし、チェンバーやデュオなどいろいろ選べて、それをすると授業をとらなくていいようになっていました。他のコースは取らなければならないものもあったので、みんなエッセイとかをやっていましたけど。
ちなみに打楽器のレッスンはティンパニ、打楽器、マリンバ、ラテン、ジャズビブラホン、ドラムキットがあり、3年生からは好きな物だけを選べるようになります。色んな物をまんべんなく学べるという面では、素晴らしいシステムですよね。
オ- ケストラコースでは学校内外の先生、演奏者を自分たちで選んで習いたい人とのグループレッスンも出来ます。
- オーケストラはエッセイもなし?

川本 やってもいいですけど、やらなくてもいいです。自分で選べます。ギャップ・イヤーの時は大学1年生と同じようなことをやっていたので、和声などの基本的なことをやっていました。僕はとっていなかったですが、結構面白い授業があって、音楽をどうビジネスに結びつけるかとか、プログラムノートを自分で書くための授業があったりとか。先につながるような授業も結構ありました。
- 大学院の時はレッスンだけ受けて、コンペティションに向けてというような感じで?

川本 そうですね。後はオーケストラやアンサンブルの本番もあったり。
- 現地での音楽業界のつては、学校にいることでできたりするのですか?

川本 それはEU外の人にとっては難しいですね。ピアノとか弦の人はティーチングの仕事が結構あるので、それをやっていたと思うのですが、打楽器でそれはなかなか難しいです。友達にもらった仕事もありますけど、それはボランティアとか、アマチュアのオーケストラとか。いられるのなら卒業してから仕事をくれるということはあったと思いますが、実際にいられないので。先生に信頼されれば、外国人でももらえることはもらえると思います。でも僕らは働いてはいけなかったので。バレたらビザ剥奪ともなりかねませんからね。ワーホリなどで行くとしたら、たぶん単発の仕事などをくれると思いますけれど。ただ先生が言っていたのは、学生に仕事をあげるのは難しいと。それは人によると思うんですけどね。学生よりも卒業生の方が優遇されると言っていました。
- 在学中ということで難しいと?

川本 はい。まぁやってる人もいましたけどね。イギリス人は学生でも結構外の活動をしてる人もいましたが、学生とそれに毛の生えたような人たちの寄せ集めの仕事ですね。日本でもそういうのはよくあると思います。
- 留学して良かったと思えた瞬間は?

川本 英語をちゃんと学ぶことで、いろんな国の人とコミュニケーションができたり情報交換できることが一番大きいのと、人間的にも成長したと思います。後は日本にいたらやらないような奏法や音楽理解など、いろんなもの吸収できました。それでわけが分からなくなることもあるのですが、今はそれを全部整理して、自分でいいものを取っていけばいいかなと思っているので、よかったですね。
- どんな点で自分が成長したなと思いますか?

川本 たいしたことでは動じなくなったことですかね(笑)。度胸はついたと思います。人とのコミュニケーションが人見知りなりにも少し楽になったというか、積極的に自分を出せるようになったというか。
あとは、留学当初は日本の悪しき慣習やおかしな部分が見えてしまいがちでしたが、時を重ねるにつれて、日本人の素晴らしい部分が沢山見えるようになりました。以前より色々なことを、狭く偏った考えでなく大きく見えるようになってきました。
自分自身もおおらかになったというか、フレキシブルになったと思います。
- 今後はオ- ケストラに入れるように、またがんばっていくと?

川本 そうですね。リーズに入れれば万々歳ですけど。
- 今後留学する人への一言アドバイスがあれば、お願いします。

川本 英語に関してはできないと思っている人がたくさんいると思うのですが、あまりそれを恥ずかしがらずに、わからないものはわからないと割り切ってやっていった方が成長すると思います。それと、いろんなことを聞いて自分が信じていることと違うことを言われたりして、わけわかんなくなって迷ってしまうことはあると思うのですが、それを全部真に受けないで、一度脇に置いて、自分の引き出しを増やすというか、全部使わなくてもいいけれど覚えておくという感じで思っていた方が、いろいろ役立つのではないかと思います。
- 英語がわからなくても吹っ切れた瞬間はありますか?

川本 それが僕はないんですよ。遅かれ早かれ大体の日本人の友達にはあって、僕はそれがまだ無いんです。……しょうがないですよね(笑)。
- 3年間いていろんな成長があったと思うので、これからの活躍を期待しています。どうもありがとうございました。
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